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仙台高等裁判所 昭和54年(ネ)395号 判決

控訴人

高橋邦夫

右訴訟代理人

小林昶

被控訴人

イースタンモータース株式会社

右代表者

東野公一

右訴訟代理人

鈴木多人

主文

本件控訴を棄却する。

当審における予備的請求に基づき、被控訴人は控訴人に対し金八四三万七五〇〇円およびこれに対する昭和五一年九月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

控訴人のその余の予備的請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は、控訴人において被控訴人のため金二〇〇万円の担保を供するときは、控訴人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一主位的請求について〈省略〉

二そこで、控訴人の当審における予備的請求について判断する。

1、2〈省略〉

3  ところで、このように控訴人の占有している本件自動車を控訴人に無断で勝手に引揚げた山崎英勝、東野誠一らの行為は少なくとも控訴人の占有を侵害した違法な行為というべきである。

もつとも、被控訴人は、「ワールドオート」に本件自動車を所有権留保つきで売渡したものであるから、売買代金が完済されない以上、その所有権に基づいて控訴人に対し右自動車の引渡しを求めうるかの如くである。しかしながら、被控訴人は自動車のデイーラー、「ワールドオート」はサブデーイーラーであつて、両者は協力してユーザーに自動車の販売をする関係にあるところ、前段認定の諸事実によれば、被控訴人は「ワールドオート」に対し、ユーザーに売渡すことを許容ないし期待して本件自動車を引渡したものであること、被控訴人が「ワールドオート」との間で本件自動車の売買契約を締結するに至つたのは、「ワールドオート」がユーザーに本件自動車を販売したことを知り、または知りうべき状況にあつたためであることが推認される。デイーラーがサブデイーラーの代金不払に対処するため所有権留保売買をしておき、ユーザーがサブデイーラーに代金を完済しても、サブデイーラーがデイーラーに代金を完済しないうちは、デイーラーは留保された所有権につきユーザーに対し当該自動車の引渡しを求めうるとすれば、サブデイーラーの支払不能の危険をユーザーが負担することになり、右は自動車販売の目的を逸脱することが明らかである。以上のことはデイーラーがサブデイーラーとユーザーとの間の売買契約に協力(ユーザーのために車検手続、自動車税納付手続の代行をする等)したと否とに拘わるものではない。したがつて、本件においてデイーラーである被控訴人がユーザーである控訴人に対し、留保された所有権に基づき本件自動車の引渡しを求めることは権利の濫用として許されないものといわなければならない。然りとすれば控訴人が直接に占有する本件自動車を無断で持ち去つた被控訴人の所為は、本件自動車の所有権侵奪に匹敵する違法行為であることが明らかである。

被控訴人は「ワールドオート」から「コンチネンタルモータース」を経て控訴人へ本件自動車が売り渡されていたことを知らなかつたと主張するが、前段認定のとおり被控訴人はその被用者を控訴人のもとに派遣して本件自動車の返還の交渉をしているのであるから、控訴人が本件自動車を買い受けたことを承知していたものというべきであるし、また、このような自動車の引揚方法は業界で多年慣行となつている明示もしくは黙示の特約または慣行によるとの点も、ユーザーに債務不履行がなく、サブデイーラーにのみ債務不履行がある場合にまで妥当するものとは認め難いところであり、被控訴人が本件自動車の引揚げにつき「コンチネンタルモータース」の承諾書ないし委任状を徴したことも、ユーザーである控訴人の占有する本件自動車を無断で持ち去ることを正当化するものではないから、被控訴人の右主張は、いずれも採用の限りでない。

以上のとおりであるから、被控訴人の被用者である前記山崎、東野らは被控訴人の事業の執行につき、故意または過失により違法に控訴人の利益を侵害して損害を生ぜしめたものというべく、被控訴人は使用者としてその損害を賠償する責任がある。控訴人は本件乗用車を引揚げられなければ、完全な所有権を有する場合と同様にこれを使用収益しえたのであるから、これにより右自動車の価額に相当する損害を蒙つたわけであり、右価額は控訴人の取得価額から引揚げに至るまでの三か月間の減価分を控除した金額である。本件乗用者は一九七三年式の中古車であるから控訴人がこれを取得した一九七五年(昭和五〇年)までに二年を経過しており、普通乗用車の耐用年数は六年とされている(昭和四〇年大蔵省令第一五号「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」)から、残存耐用年数は四年である。したがつて、定額法の償却率によると右三か月間の減価分は五六万二五〇〇円となり、控訴人の損害額は九〇〇万円から右減価分を控除した八四三万七五〇〇円である。〈以下、省略〉

(田中恒朗 武田平次郎 小林啓二)

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